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 半分実話……というか。

 また帰りにちょろり。

 地下鉄で。



 あの二人ですよ。







 


 乗換駅でざらりと人波が降りた。

 もう夜も遅いこの時間に、しかし帰宅時間の幅は否応無しに割り込むらしい。

 最後車両の最後尾の席に座っている、その目線の先には活字。

 内容は佳境を迎え、主人公でありながら悪役である彼らが賭けに出向く寸前までを目で追っていた。

 このテの話は少なくない。勧善懲悪が説得力を成さない時代には必ず現れる傾向。

 文字通り腐るほどに時間があるので読書に割り当てる時間も多い。

 ただ、他の音楽や映像や何かと比べればそれは情報量の割合が多いというだけの話で、また移動時間にひとりである、そして周囲を観察し終わった後であるという条件付きで、この時間と言うのは出来上がる。

 それでも飽き足らないのは、ひとつとして同じものが無いと知っているが故――だけでもない。

 活字と同時に視界に入るのはベージュの床と、目の前の空いた赤いシート――。

 おや。

 黒いズボンと白いスニーカーが入り込んだ。

 ちら、と視線を上げると、向かいの席に学生服が座っていた。

 がらりと空いた車両のドアとドアの間には、学生服の彼を含め4人。それぞれが向かい合うシートの端に予め定められたように腰掛けている。

 事勿れ主義のこの国らしいというか。

 ともあれ、その学生服の彼は、傍から見ても長い脚を組んで、前屈みにも程があるだろうというくらい猫背になって――本を読んでいた。

 こちらに向けられたのは、ワックスか何かでクセをつけた頭の、前頭部とつむじ。

 最近デビューした、明らかに容貌重視の少年二人組のユニットの、その片方に似ている――のは髪型だけだ。

 顔はさっぱり見えない。

 脱色染色当たり前のこの時代に、しかし黒髪なのが好印象だった。

 先程車内を観察した際にも居た学生だ。しかし人込みにまみれ、やはり顔は見ていなかった。

 しかし正面に座る気になるあたり、彼もこちらのことには気付いていないのだろう。向かい合わせのシートの間の残り2人でさえ、ちらちらとこちらを見ていると言うのに。

 一心不乱だ。

 何を読んでいるのだろう……。

 手元の活字が綴る先への興味が薄れた。

 悪の主人公たる彼らの行く先は、主人公であるが故の未来か、悪役であるが故の結末しか待ってはいまい。予測を裏切る形のエンディングなら、くつろいで読む価値がある。

 本を読む振りだけを続行して、彼の手元を観察する。

 前屈みの体勢で読んでいるせいで、本の表紙も背表紙も見えない。カモメが飛ぶような形だけが見事に白く学生服の黒に浮いている。

 に、しても。

 形状が少々不自然だ。

 表紙のページの長さより中身のページの長さの方が3分の1程短いのである。

 おまけに、ページの閉じてある位置の厚さと、ページの先の厚さが倍くらい違う。

 開いているからそう見える、という話ではないのは一目瞭然だ。

 あれは、中身の全てのページが、先端から3分の1のところで折り曲げられているのだ。

 そう判断した所で、何を読んでいるのか検討がついた。

 おそらく、大学受験の為の英単語帳として、ここ最近では最もポピュラーな一冊であろう。

 答えの部分がページの端に書いてあるので、ああして折り込んで使用する学生が多いようだ。

 垢抜けた髪型からも判っていたが、やはり高校生か。

 平日のこんな時間まで外出している、というのは塾か何かなのだろう。遊びに出て、帰りに英単語帳を読んでいる、という線も無くは無いが。

 指先から視線を辿らせる。腕も長い。やっぱり脚が長い。細身で、さぞかしモテるだろうという体型。

 だが顔が見えないので実際どうなのだろうか。

 ぬう。

 喉の奥で唸った。

 さて、こちらを向かせてみようか。

 しかし勉強の邪魔をするだけの意味合いも無いかもしれない。

 そこでひとつ、賭けをしてみることにする。

 コートの内ポケットから携帯電話を取り出す。マナーモードを切ってから、着信音のギャラリーを表示させる。

 いつの間にか登録されている楽曲の中から、少々やかましいロックメロディーを選択する。

 一瞬でいい。

 長い前髪と猫背に隠された、その鼻先を見やって。

 主人公でも悪役でもないから、先は判らないが、結果は二つの内どちらかだ。

 再生。

 びりり、と一瞬空気が揺れた。

 すぐに音声を止める。他の二人の視線が飛んでくるのが判るがそんなことはどうでもいい。

 目の前の彼は、ページをめくろうとしていたその手を一瞬止め――









 改札を出るとヤンキー座りで霧胤が出迎えた。

 態度の悪いその体勢も、霧胤がやるとどうしても絵になってしまうあたり若者の教育上よろしくないか等と考える。

「おーそーいーっつの」

「何分遅れた?」

「マイナス5分」

「遅れてないね」

「アタシが3分待った」

「君はカップラーメンが出来るのに遅いと文句を言うのかい」

「アンタと一緒なら何年だろーが待ってやるよ」

 已漓寿は笑みだけを返し、手を差し伸べた。

 その手に捕まって、ひょい、と霧胤が立ち上がる。しゃら、と右目の片眼鏡とカフスを繋ぐ細い銀鎖が鳴った。

「……機嫌いーじゃんよ」

「わかるかい」

「愚問だぜ」

「訊いてるわけじゃない」

「訊いてるのはこっちだ」

「訊いてないじゃないか」

「空気を読めよ!」

 かつん、かつん、と二つの足音を響かせながら上への階段を上ると、出口から冷たい風に吹き降ろされる。

 それすら楽しいそうに、長い髪を流して已漓寿は微笑む。

「いい男を見たのさ」

 かつん、と片方の足音が止まった。

 已漓寿は二段だけそのまま進んで、振り向いた。

 案の定綺麗な顔が仏頂面だ。

「浮気宣言とはいい度胸だなオマエ」

「見たと言ったじゃないか。見ただけさ」

 もう一度手を差し伸べるが、無視された。そのまま横を素通りされる。

 かつんかつんかつん。

「そいつァ余程観賞に堪え得るおカオなんでしょーよ」

 長いマフラーの端が、掴んでくれと言わんばかりに已漓寿の目の前でたなびいている。

「どんだけいー男なのか聞かせてもらおーじゃないか」

 敢えてそれを掴むことなく、霧胤の後姿に口を開く。

「まず脚が長い」

「アンタの方が長いだろ」

「腕も長い」

「右に同じ」

「細身で」

「オレだってそうだろうが」

「学ラン」

「着てやろーか」

「着崩し方もイイ感じ」

「乱して欲しいなら自分の手でやれ」

「今時珍しく黒髪」

「オマエの目玉は節穴か」

「私の目の前に座って」

「一目惚れでもされたか」

「私のことなど気付かずに」

「……」

「ずっと英単語の勉強をしいてた」

「……」

「ケータイに、あのやかましい曲入れたの君だろう? あれ鳴らしたんだが見向きもしない」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……で?」

「で?」

「カオはどんなだったんだよ」

「見てないよ」

「……あっそ」

 やっぱり、とでも言いたそうな溜め息に、ますます楽しそうに已漓寿は笑った。





 あの時。

 一瞬、動きを止めた彼は、しかし何事も無かったかのように、ページをめくり、単語を目で追い出した。

 ……ふむ。

 得たりとばかりに微笑むと、狙い定めたように電車は降りる駅のホームへ滑り込んだ。

 黒いコートの裾をさばいてブーツの踵を鳴らして彼の横を通り過ぎたが、やはりその視線は上げられなかった。

 横目で見た鼻梁は通っていて、顔立ちの良さを窺わせた。

 賭けには負けたが非常に満足だった。





「見事な集中力さ……私の方があの子が気になって読書中断したくらいだよ」

 何処の大学を受ける気なのか知らないが、きっと受かるだろう。

 已漓寿は自らを根拠に確信していた。

「…………やっぱり浮気かよ」

「霧胤」

「気ィ浮わついてんだから浮気じゃないのよ」

「君、子供相手に嫉妬するのいい加減やめたまえよ」

 地上に立ってからようやくそのマフラーの先を掴んだ。

 ただ、掴んだといっても、そのまま進めばするりと手を抜けるだろう程度の力しか込めてはいないのだが。

 案の定、その少ない抵抗力で、霧胤は止まった。

「君は……アレだ、出来の悪い子ほど可愛いってヤツだからなぁ」

「アンタはデキのいい子好きだもんな」

「まるで君を見るようで、ね」

 正しくは、ただ悪しくは――自分たちを見るようで。

「…………甘やかすなよ」

「至極当然の愛情だよ」

 その根拠は常にたったひとつだ。

 愛情と言うには、やはり歪んでいるのだが。

「ふん……至上の美を目の前にして気付かない馬鹿なんざ何処行ったって馬鹿よ」

「基礎というものは、常に超えられる為にあるんだろう」

 自立を望むにはまだ早い。

 そもそもいつまで経っても超えられない。

 気が遠くなる、その状態さえ逸脱しても尚。

「なぁに、あまねく親の欲目さ……気にしても始まらないよ」

 ただし何処までも無責任だ。

 霧胤は振り向いて使い方間違ってるわよ馬鹿、と言った。

「偏ってるから欲目なんでしょ……全部が対象じゃあ、贔屓目にすらなんねーよ」

 やはり已漓寿は微笑んで、残念、と霧胤に囁いた。

「全部全体というのは、私にとっては君と俺なのさ……彼らはその狭間に引っかかっているだけだよ」

 基盤は揺らがない。

 超えられるその時まで。

 彼のように、自分たちの存在を誰も認めなくなる時が来るまで。

「少しばかりの意識なんて、それこそ気紛れみたいなものだよ……」

 常以外。故に全て。

 例え選択肢が無限大に見えても、この目には二つ。そして結末はひとつ。

 賭ける意味すら持たない。

 それでもせめて、結果を望むなら、あの彼の目を、見たかったかもしれない。

 そう言うと、霧胤は眉をひそめた。

「何を見るつもりだよ」

「何も」

 おそらく顔を上げていれば、その目に映った自分の姿以外は見えないだろう。

 そういう風に出来ている。

 故に、世を占拠させておきながら全てではありえない。

「君以外に見たいものなんてない」

 基礎の基礎は欲目にすらならない。

 そんな言葉は基本中の基本だ。

 言わせておきながら、霧胤は少しばかり悲しそうな顔をする。

「君以外何も見えない」

 欲目――確かに。

 ならばこの目はその名に相応しいのかもしれない。

 世界の全てを見るのは、お互いを見るのに等しい。

「言われなくても――わかってるよ」

 自らを世界と成しえない認識だけが、霧胤に嫉妬を抱かせているのだが。

 だからといって、片眼鏡を外させる気にもならない。

「確認したいなら、結末まで読み飛ばせばいいさ」

「やらないって解ってるくせに言うんじゃねーよ」

「君の方が余程親馬鹿だ」

「冗談。馬鹿ップルで十分だ」

 真夜中に嗤う影が二つ。

 たった二人の一種類。

 選択肢皆無な常用外。

 意味するところは、互いが全て。









 えっれー長なった……。

 しまったもうこんな時間……_| ̄|〇

 ともかくお気に入りですら一瞬の玩具であるふたり。

 複製品つか模造品?

 実は結構残酷なことを互いに強いていたり望む所だったり。







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