サイクルライフル

　

　ガリガリガリガリ。

　チェーンが引っ掛かっているのを知っているけれど直す気は皆無。

　ガガンと足首に響いてギアが嵌まるのを待つだけ。

　風を切る途中で刃が止まるかもしれない外れる危険性なんてそんなもの。

「先生、先生は自転車で交差点を渡る時どうしますかぁ」

　十日連続の遅刻を理由に職員室で向かい合った先生に聞いてみるけれど先生は車で通勤してるからあの風を切って車を擦り抜けてクラクションをさらりと無視するあの感覚を知らないんだろう。

「オレは交差点を斜断するのが好きなんスよぉ」

「しゃだん？」

「そう、横断でもなく縦断でもなく斜断」

　信号が青になるのを待って横断歩道を横断してまた信号が青になるのを待って今度は縦断して、そんな退屈で面白味の無いことをしていたら日が暮れてしまう遅刻もするし。

　ガリガリガリガリ。

　縦断する車と横断する車がどちらも止まって真っ直ぐであることを美徳と言うが全く以って口先だけの大人たちが自分に正直に右折か左折か交差点を曲がる間、その中央はガラ空きだ。

　ペダルを踏み込んで体重をかけて煙が出るかと思うほどのスピードで回転するチェーンを操って、斜めで悪いか真っ直ぐなんだ文句あるかとばかりに交差点の対岸を目指して駆け抜ける走り抜けるガリガリガリガリ。

「事故るんじゃないのか」

「事故る時は誰だっていつだって何やってたって事故るんスよ。でももし交差点で撥ねられたら、オレは交差点の真ん中で死ねるんスよ」

　みみっちく歩道の間際なんかで倒れてやるか。額縁じゃあるまいに横断歩道の縞の中で血なんか流してやるか。真っ黒なアスファルトにじわじわじわじわ色もわからないくらいに血が流れ出してすべての流れが止まるだろう車も人も自転車も世の中の流れが自分を中心に止まる。

　ガリガリガリガリ。

「じゃあ俺が撥ねてやろうか」

　それはいい考えだとは思うが遅刻十一回じゃ済まなくなると思うがいいのかな先生。







　たまにブチ壊れるおれのサイクリングライフ。